道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/12/31

ショートホープ

親父の煙草を吸ってみた
俺に似ていたであろう
親父の煙草を

ちっせぇ箱さ、ショートホープ
2本の弓矢が空向いて
今にもありもしない方向に飛んで行きそうだ

なぁ、あんたは何を
しまいこんだんだろう

何を見たんだろう

俺とあんたの人生は二箱の
ショートホープの弓矢みたいに
別々(あさって)の方向を向いているけれど

それでいいだろ
それがいいだろ

つぶされて くたびれた
ショートホープが

あんたの胸ポケットと
俺のジーパンのポケットで
がたがた揺れてるんだ
眠れもせず 今日も







cic

2010/07/22

アルフォンソは突撃に備える(Alfonzo prepares to go over the top)


ベローの森で   1917年

兵士は命令を待つ   それから
体をぐいっと持ち上げ、
熊手のように拳銃を揺らし
とげだらけの小枝とつぶれた顔を超えて進む。
「塹壕、ネズミの糞、
 絡みつく雑草よりは
 どんなものでもましだ」とかれは思う。
兵士なんて風を待つ煙だ
ぱたんと閉まる音が奥まで響く
長い廊下だ。
そこでは子供がひとり
崩れた子供部屋で歌っている・・・
そして
銃床に映るおれの眼の輝きだけは美しい。
銃剣についたおれの唾は、ドイツ兵の腹の中で
熱くなることもなく、刃のうえで乾いてゆく。
母さん、許してくれ。
葉のざわめきが聞こえるかい?おれは
もう思い出に過ぎないんでね。



      リタ・ダウ(Rita dove)

2010/07/02

MY WAY



ああ、もう、終わりが近い

俺は幕引きに向かっている

あばずれめ、俺はホモじゃねぇ

俺のことを言おう そいつは確かなことさ

俺は生きた めいっぱい駆け抜けた

どこへでも、あらゆる道をぶっとばしてきた

もう十分、これ以上なく、

俺は俺の道を歩いた



しまった、ちょっと飲み過ぎたぜ

でももう一杯 語るには少なすぎる

だけど突き詰めてやるぜ 俺のやるべきことを

見届けてやる 購いも無しにな 

俺は考えた それぞれの道を

慎重に行けよ 人生の道をずっとさ

もっと、それ以上になく、

俺は俺の道を歩いた



時間はあった

オマエも知ってるだろ

そんときゃしかし、しかし、

別のバカげたことしなきゃなんなかった

でもすべて終わっちまうと、

疑いだけが残っちまった

俺はぶっぱなす!さもなきゃ蹴り出した!

俺は壁に直面した 壁にな

そうやって俺は俺の道を歩いてきたんだ



昨晩ヘトヘトでベッドに突っ伏した

めいっぱいだった ああ、俺の略奪の分け前

そして今、涙がおさまってみると、

それもけっこうおもしれぇって気づいたんだ

考えるためだが、俺は猫を殺しちまった

ヤツらのやりかたとは違うと言わせてもらおう

そんなの俺じゃない!

俺は俺の道がある



クソガキであることで、

ヤツは何を得たんだ?

いつか帽子をかぶる頃にゃできなくなる

モノを言い、本当に感じることがな

けれど言葉だけは、

ひざまずく者の

人生の記憶を示すのさ

俺はなんにも身にまとっちゃいない

それが俺の道なのさ




     ジョン・サイモン・リッチー(John Simon Ritchie)

2010/06/29

眼にて云う


だめでせう
とまりませんな
がぶがぶ湧いているですからな
ゆうべから眠らず血も出つづけるもんですから
そこらは青くしんしんとして
どうも間もなく死にそうです
けれどもなんといい風でしょう
もう清明(春)が近いので
あんなに青空からもりあがって湧くように
きれいな風が来るですな
もみじの若芽と毛のような花に
秋草のような波をたて
焼痕のある藺草のむしろも青いです
あなたは医学会のお帰りか何かは判りませんが
黒いフロックコートを召して
こんなに本気にいろいろ手当もしていただけば
これで死んでもまずは文句もありません
血がでているにかかわらず
こんなにのんきで苦しくないのは
魂魄なかばからだを離れたのですかな
ただどうも血のために
それを言えないがひどいです
あなたの方から見たらずいぶん
さんたんたる景色でしょうが
わたくしから見えるのは
やっぱりきれいな青空と
すきとおった風ばかりです



         宮沢賢治

2010/06/28

狂った気候(Crazy weather)


ここまでずっとこのような狂った気候だった。
ぼくらはある瞬間は前のめりになり、
次の瞬間ぼうぼうの草と名もない柔らかな
白い花のうえに倒れ伏したりした。
ひとびとはこの気候から衣装をつくってきた。
無名の十字路で、リラの白と稲妻を
縫い合わせてできたのだ。空は呼びかけるが、
大地は耳を籍さない。ただ君は立ち上がるとき
この悪評の朝の無秩序は収まる。きみは
テキストを身にまとう。詩行が
きみの靴ひもにまで垂れる。ぼくが求め、
必要としている文学はまさにこの泥の詩だ。
かつて詩が当時の森と耕地を気楽に
通り抜けて、単純な、無意識の威厳を
持っていたころの野心の記憶だ。
でもいまは望んでも及ばず、だれももう
立ち入ろうとしない峡谷の片隅でだけ、
珍奇な、退屈な最近の標本が
ときどき新芽を吹いたりしているらしい。




     ジョン・アシュベリ(Jhon Ashbery)

2010/06/27

覆われるものの為の覆い(The container for the thing contained)



男は、女のブラウスの奥になにを捜しているのだろう。
男は、この7年女のからだのそばにいながら
いまなお女のすらりとした脚の曲線に
驚いている。いまなお女の背骨を
念入りに熱心になぞっていって、
骨盤帯に辿りつくとその骨を探っている。
上体を前後に動かして眺めると、
女の肌は光陽に輝いたり翳ったりする。
晩年の版画で、
グロテスクな画家として描かれているピカソは、
ベットで股をひろげている若いスペイン女を
じっと見つめている。女の脇には黒服を着た
付き添いの老女がいる。ピカソは六十年毎日
はだかを見てきていながら、いまなお
そこになにを見つけようというのだろう。
それでもなおピカソはその遠い、
遠い光の断続に近づく事が嬉しかったのだ。
それはごく身近に思われながら、
実はそうではない、二階の奥の部屋で
そっと弾かれるピアノの曲に似ている。




     ジャック・ギルバート(Jack Gilbert)  

2010/06/23

16:33



16:33分に合わせたアラームがなり

俺はにわかにまぶたを開ける。

アルコォルをしょいこんで

ベッドに倒れ そこから続いた

浅くてチープな眠り。

もはや眠気を払いのける事はたやすく

俺はカーテンの外の静かな

夕方を覗き込んでいた。

向かいのマンションの公団白色と

切なく削がれたまだ青い空が

俺のこころに充ちるまで

大して時間はかからなかった。



    






cic

2010/06/20

瀞(a pool)


魂のかたちなど問いはしない
血に対して熱いとか冷たいとか
そういうものは基本的に
無いと思うしそれでも
生温いのが一番気に食わない。

連れが死んだ日
俺は生理中の女とセックスした
夜に携帯が鳴って その男の
死を知った  プールの排水溝に
最後の水の群が流れ落ちる感じだった
不謹慎だとはわかっていたから今まで
この事は誰にも喋らなかった
ただ、誰も悲しまなかったし不幸にも
ならなかった。  
その男の死を血まみれにした訳じゃ無い。

事故で死んだ子供の対の靴が
俺を追っかけてくる、という夢を見た。
俺は逃げもせず 道路の真ん中に
立ち尽くし、対の靴と対面した。
対の靴は俺のもっとも近い所で足踏みし、
俺を蹴っ飛ばす事は無かった。

たった今 向かいのマンションでは小型犬が
ケン、ケンと吠えたてている。
仕事に行きたくない俺は それが自分に対する
叱咤の様に思えてイライラする。
1日6時間の睡眠を要し、メシを
食わねば死んでしまい、その他倫理や欲や
義や愛なんぞにはさまれて倒れる事すら
出来ないこの体を   今日この
日付が変わるまでは
うっとうしいと思ってやろう。



         ロイ・ラプターズ(Roy Raptors)

2010/06/18

内部(The inner part)

アメリカ人が戦争に勝ち、
しかも歴史上はじめて
世界でもっとも重要な国民となったとき

指導的な市民がもはやシャツ姿では生活しなくなり、
そしてその妻たちが人前でボリボリと掻くのをやめ、
ちょうど彼らが「くそっ!」と言うのをやめたとき

娘たちがフィッシング用の
さおの先のように繊細になり、
そして息子たちがV8エンジンのように快適になったとき

鳥の内蔵を調べていた神官たちは、
心臓が違った位置にあり、種は死のように黒く
異臭を放っているのに気づいた。




        ルイス・シンプソン(Louis Sinpson)

2010/06/17

どうして僕たちが・・・


どうして僕たちが僕たちだけであり得ず
どうして僕たちは互いにいつも
血をまじえ
感情を交わし合うのか どうして人は
他人と笑い 他人と共に泣くのだろう

僕たちがちりぢりになったあと
僕たちを互いに結びつけるために
とり残された細い糸よ
僕たちを独りぼっちにしておかないための
微笑と 接吻と 涙と




      フワン・ラモン・ヒメネス

2010/06/09

肉と霊について(Of flesh and spirit)

私は二十三の歳まで処女だった。
その後はいつでも、こっそり複数の恋人がいた。

中国ではポルノ・ビデオを見ただけで死刑になるが、どのデパートにも
コンドームとピルを、ただでみんなにくれる。法律で義務づけられているのだ。

母が手作りの最初のブラを差し出したとき、私は恥ずかしさのあまり
大声を出して外に逃げ出した。母は自分で使うには小さすぎたので、
そのブラをずたずたに切り裂いた。

八百年の間、女の纏足は中国の男たちにとって最も美しい欲情の対象だった。
三インチの「黄金の蓮」に比べれば、おっぱいや尻などどうでもいいものだった。
頭がおかしいか鼻に問題があったに違いない。昼も夜も何重にも
布を巻かれたままの私の祖母の足は、魚の腐った臭いがした。

けつの穴は、中国語では「屁の目」と言う。

中国では、二十五で独り身の女は両親を悩ます。二十八で独り身の女は
友人と同僚を悩ます。三十で独り身の女は上司を悩ます。三十五で
独り身の女は憐れまれ、変態とみなされる。

一番こたえる悪口を浴びせる時は、「てめえのお袋をファックしちまえ」、
「てめえの婆さんをファックしちまえ」、「十八代前の曾婆さんを
 ファックしちまえ」と言う。

ある日、父が母に、うちの雄鶏はもう跳び上がれるかと聞いた。
雌と番えるか、という意味だった。私は母が答える前に口をはさんだ、
「だいじょうぶよ。鶏小屋の屋根の上に跳び上がるのを見たわ」と。
私は十歳だった。

女たちは月のものを「例のつきもの」と呼び、科学の本は「月経」と呼ぶ。
洗練された人達は「月の光がどぶにあふれている」と言う。

最初の男は、私の処女を奪った後、私とアメリカで結婚すると誓った。
男には子供が二人と、無学な妻がいたが、警察に離婚を請求する
勇気はなかった。男は私を、北京ホテルに滞在中のアメリカ系中国人の
いとこに会わせ、男がアメリカに行くための保証人になってくれと頼んだ。
しかし、そのいとこは私の保証人になった。それで私が今ここに
いるのであり、男は妻の元に戻る事になった。
多分まだ私のことを呪っているだろう。

中国の百姓は、妻の事を「うちのやつ」と呼ぶ。中国のインテリは、
妻や妾を「黄金の家の人形」と呼ぶ。社会主義のもとでは、
夫と妻は「愛人」と呼び合う。

祖母が飽きもせずしょっちゅうしていた話があった。
好色な男の話で、その男はその好色ゆえに罰せられ、
額にペニスをぶら下げて町中を歩かされたという。

われわれは「恋に落ちる」とは言わず、「恋を語る」と言う。

家を出る時、父が私に言った。  二十五になる前に恋を語るなと。
私は耳をかさなかった。まあ、私の最初の男は妻のある臆病者だったし、
私の最初の結婚は一週間しか続かなかったけど。
夫は私と寝ただけで、それ以来私は一度も会っていない。




           ワン・ピン(Wang Ping)

2010/06/06

俺はある男を知っている(I know a man)


おれはダチにこう言ったんだ。
なんせ、おれはいつもしゃべりっぱなしだからな。
「なあジョン」
とおれは言った。
まあ、それはやつの名前じゃなかったけどな。
「真っ暗になっちまったぜ。こうなるとどうにもならねえや。
 いっそ馬鹿でっけえ車でも買っちまおうか。
 ええ、どう思うよ?」
「おい頼むから」
と奴は言った。
「ちゃんと前向いて運転してくれよ。」




        ロバート・クリーリー(Robert Creeley)      

2010/06/01

猟犬とウサギに関する小さな詩(Small Poem about the Hounds and the Hares)


狩猟のあと酒宴がある。
宴が終わりに近づき、舞踏も静まり、
若者たちがどこかへこっそり消えたあと、
ウサギの血に酔った猟犬たちが語り始める。
ウサギの毛皮がどんなに柔らかだったか、
ウサギの跳躍がどんなに優雅だったか、
怯えたやさしい眼がどんなに愛らしかったか。



          リーゼル・ミュラー(Lisel Mueller)

2010/05/27

あけがたの歌




燈を消そう。そのうちもうあけがただよ。
水腫のあま皮をはがす剃刀のような
鋭利なあさやけ。
ひらかれた窓からながれている
爽やかな悲愁。

 紙幣。このひとときには、それも
  うすぼけた紙切れとしか見えない。
 窓外の風景は、しらけきって、ねざめぎわの夢のあとを追って
  どこかへ逃げてゆこうとさまよう。

 僕も、僕のつれあるいている影も、ゆくところがない。

地平線、

そのうえに重なる灰色の屍。
るいるいとしたからだ。

大河の氾濫につづく洪水。
そのうえをわたって
細いマッチ棒のような錐柱。
ならぶ百本の煙突。

遠い海峡の潮の音。

かえらない為にとびたつ
戦闘機。



ががぶたや、水かまきりや、頭もしっぽも
ずんぐりしためくら魚どもが
泥沼のなかを横行している。
陰謀と、嘘と、醜さが、こんなにはっきり
みえていることはない。
出発しよう。さあ。
まだ誰も起きてない街をそっと通りぬけて、

敷石のしたからきこえてくる
亡びたジャズの雨音。

うなされている画ビラ。

涙にしめったコンクリと、
汗をかいた銃。

あのながい塀のうちは
屈従、
屈従、
屈従、
どんな恥も
屈従よりはいくらかましだ。

いなずま。
いや、そうじゃないよ。あれは、
誰かが白鶴となって朝空に舞い上がるため
じぶんの頭に、弾をうちこんだのだ。



         金子光晴

2010/05/24

触知


或る男はイエスの懐に手を入れて
二つの傷痕を撫でてみた。
一人のかたくなな彫刻家は
万象をおのれ自身の指で触ってみる。
水を裂いて中をのぞき、
天を割って入りこもうとする。
ほんとに君をつかまえてから
はじめて君を君だと思ふ。


          高村光太郎

2010/05/02

「異邦人」より


そのとき、すべてがゆらゆらした。
海は重苦しく、激しい息吹きを運んできた。
空は端から端まで裂けて、火を降らすかと思われた。
私の全体がこわばり、ピストルの上で手が引きつった。
引き金はしなやかだった。
私は銃尾のすべっこい腹にさわった。

乾いた、それでいて、すべてを聾する轟音とともに、
すべてが始まったのは、このときだった。
私は汗と太陽とをふり払った。
昼間の均衡と、私がそこに幸福を感じていた、
その浜辺の特殊な沈黙とを、うちこわしたことを悟った。
そこで、私はこの身動きしない体に、
なお四たび撃ちこんだ。
弾丸は深くくい入ったが、そうとも見えなかった。
それは私が不幸のとびらをたたいた、
四つの短い音にも似ていた。


               カミュ

2010/05/01

革命的ペチュニア



悲しみのサミー・ルーは
夫を殺した奴に
仕返しをした
耕作用のくわを使い
うまく一撃を命中させた
そして笑った
不信の中で
自分自身の怒った戦闘的な姿を
町のヘボ詩人たちが素早く作り上げた英雄的姿
そんな詩人など一人も彼女は知らなかった。

彼女の家は人里離れた森の中
彼女の家の壁紙は
遺体安置所のカレンダーと顔写真
それらは ミシシッピーの日曜学校にふさわしい。

彼女は育てた
ジョージを マーサを ジャッキーを ケネディを
ジョン・ウェスリー・ジュニアもまた
「いつも神の御言葉を尊敬するんだ」
彼女は殺しに行く途中で言った その道が
どこへ続くか
彼女は知らなかった
知っていたのは その道が
電気椅子に繋がることだけ
そして彼女は続けた
「水をやるのを忘れんでほしい。
 あたしの紫のペチュニアに。」



            アリス・ウォーカー(Alice Malsenior Walker)

2010/04/27

おんなの詩


いいこと、あたしの全人生は
結ばれている
しあわせに
おとうさんは朝ご飯を作っている
あたしは豚みたいに太る
でなければ食べ物がまるでない
そしておとうさんは
再び
まるで働かない
そしてあたしは願う
自由とはどういう感じか知りたいと

おんなに職があっても
みんなはあんたを働かせようとはしない
でなければ職がまるでない
あたしは去勢されたみたい
(そう それはおんなにも起こる)

おんなはセックスの対象物 あんたがかわいければ
でも愛なんてない
でなければ愛があってもセックスしてくれない
 あんたが太っていれば
でぶの黒人女よ引っ込め 母親にでもなれ
おばあちゃんはたくましい でもおんなじゃない
遊び女 ロマンティックな女 愛を必要とする女
男を追いかける女 男を食べる女 汗かき女
セックスしたがり屋 愛を求める女

おんなは靴に空いた穴
リルの妹にドレスを買うようなもの
彼女は言う そんなことをしてはいけないわ
あんたわかっているでしょう
よく   そんなことしてはいけないってこと

立派な服を着た福祉係の方には
せいぜい微笑みましょう
でもお互いには微笑みを交わすことはない
それはあたしが知っているたった一つの微笑み
あんたの妹は尻軽女
微笑むどこじゃないわ
喜びなんて卵を孕んだゴキブリを見つけ
そしてそれを潰すこと
恋人を見つけるなんて御免被るわ
あっちへ行け 消えてしまえ 帰れ
あたしを興奮させないで あんた 黒い犬
あたしのことなどかまわないで頂戴
あんたは良識がない
あんたなんて糞喰らえ
あたしにつきまとわないでよ

女は汚れた家
昨日のスイカがそのままだ
そしてそれは月曜の涙
なぜなら真のご婦人方はご存じない
すべての女の
知的な荒廃を掃除する方法を
感情的になるのを避ける方法を
「そうだあんた あたしはあの男と
 結婚しようと思っていた
 でもあいつには学位がなかったのさ」

女は曲がった脚が見えるミニ・スカート
かつらを被ること 髪をブロンドに染めること
乳房の傷跡
死んで生まれること 軽蔑すること
あんたの娼婦になること
踵ががたがたの靴 ぶっこわれること 
釘を打たれること おしろいを塗りたくること
あたしに立ち向かう真実
あたしの全人生は結ばれている
不幸に
それはたった一つの現実
あたしが知っている


         ニッキ・ジョバンニ

2010/04/22

結婚(marriage)


結婚しようかな まともになろうかな
隣の女の子をビロード服とフォースタス頭巾で驚かしちゃおうかな
誘うのは映画館じゃなくって共同墓地
狼人間浴槽や二股クラリネットの話ありったけしちゃって
それから欲情してキスしてありったけ前戯しちゃって
彼女はそこまでよって言って、僕はちゃんと理由が分かって
怒らないで言う   感じるだろう!感じるっていいだろう!
それとも両腕で抱きすくめて古いいびつな墓石にもたれかかって
満天の星空に一晩中せがみつづけようかな

両親に紹介される
背筋を伸ばして髪の毛を撫でてネクタイで首締めて
両膝を合わせて拷問椅子に腰をおろす
まだ聞いちゃいけないんだろうな   トイレはどこですかなんて
自分でない感じになるにはどうしたらいい
フラッシュ・ゴードン石鹸がやたら頭に浮かぶ
ああ 若者には恐ろしい事なんだ
両親のまえに坐るっていうのは 
親の方は考えている
いちども見たことがない男だ!うちのメアリー・ルーが欲しいだと!
紅茶と手作りクッキーのあとに聞かれる   お仕事は何をなさって?
言うべきなんだろうか   じゃあ許していただけますか
言ってほしいんだ   いいとも結婚しなさい ぼくらは娘を一人失うが
息子がひとり増えることになる
そしたら聞いていいんだろうな   トイレはどこですかって

ああ やれやれ 次は結婚式だ!居並ぶ花嫁の家族と友人
一握りの花婿の友人 それがみんな下品な野郎ヒゲをはやして
酒と食い物にありつけるのを待っているだけ
そして牧師だ!   これまでマスかいてたなという目つきをして聞く
この女を正式に結婚した妻としてめとりますか
なに言っていいのか震えながら言う   パイ グルー!
花嫁にキスするとあのばかげた連中がぼくの背中をどやしつける
おい さあもうみんなおまえのもんなんだぞ ハッハッハ!
連中の目にはハネムーンの扇情シーンが映っている
それからあの米粒とカラカラなる空き缶と靴
ナイアガラの滝!新婚の大群!新郎!新婦!花束!チョコレート!
それがみんなこじんまりしたホテルに流れこむ
それがみんな今夜同じことをやる
平然としたフロントはなにが始まろうとしているか知っている
ロビーのゾンビーはなにが始まるか知っている
口笛を鳴らすエレベーターボーイはなにかを知っている
みんな知ってるんだ!ぼくはもうなにもやりゃしないぞ!
一晩中起きてるぞ!ホテルマンを睨みつけてやるぞ!
そしてわめく   ハネムーンはいやだ!ハネムーンはいやだ!
そして絶頂寸前の部屋部屋に乱入していって
叫ぶ   ラジオ・ベリー!キャット・シャベル!
ああ いつまでもナイアガラにいてやるぞ 大滝の裏の暗い洞窟に棲みつくぞ
狂った花婿になって潜んでるぞ
策略で結婚をぶちこわすぞ 重婚には祟ってやるぞ
離婚の聖者になるぞ

だけどやっぱり結婚しよう まともになろう
なんてすてきなんだ 家に帰ると女房が待っている
ぼくは暖炉のそばに坐る 女房は台所にいる
エプロン姿で若くて愛らしくて ぼくの赤ちゃんを欲しがる
ぼくがすごく気に入っていて ローストビーフを焼いている
声をあげて飛んでくる ぼくはパパ・チェアーから立ち上がって
言う   クリスマスの歯!輝く頭脳!アップル・デフ!
もうなんてすごい亭主なんだろう!やっぱり結婚しよう!
することはいくらでもある 夜遅くジョーンズ家に忍び込んで
亭主のゴルフクラブを1920年のノルウェイの本で覆ってやる
芝刈り機にランボーの絵をぶらさげてやる
タヌ・トゥーヴァの切手を杭垣一面に貼付けてやる
カインドヘッド夫人が共同募金を集めにきたら
つかまえて言ってやる   不吉な前兆が空に見えてますよ!
そして市長が投票を頼みにきたら言ってやる
いつ捕鯨を禁止するつもりですか!
牛乳配達が来たら瓶の中に伝言をいれてやる
ペンギンダストだ ペンギンダストを頼む ペンギンダストが欲しい

でももし結婚してそれがコネティカット州で雪が降ってるとする
女房が赤ん坊を産む ぼくは眠れずにくたくたで
幾晩も寝ないで静かな窓ガラスに頭をつけて過去はぜんぶ遠い昔で
気がつくといちばん普通の状態に陥っていてぶるぶる震えていて
小枝の染みでもマーロン・コイン・スープでもない責任てのを自覚して
ああ どんなことになちゃうんだ!
きっと赤ん坊のおしゃぶりはゴム製のタキツスにするだろう
ガラガラのかわりにバッハのレコードの欠片を袋詰めにするだろう
ベッドには一面デラ・フランチェスカの絵を貼付けるだろう
よだれかけにはギリシャ語のアルファベットを縫いつけるだろう
ベビーサークルには天井のないパルデノン神殿を建てるだろう

いや たぶんぼくが父親になるなら
田舎じゃない雪じゃない静かな窓ガラスじゃない
暑くて臭くって緊張するニューヨーク市だ
七階の階段壁の裏にはゴキブリとネズミがいる
太ったライヒ的女房がジャガイモを食いながら叫ぶ   仕事見つけな!
そしてバットマンに夢中の鼻たらしのガキどもが五人走り回る
そして隣人はみんな歯抜けで髪の毛がばさばさで
十八世紀の魔女の集団みたいで
みんな家に入りこんでテレビを見たがる
家主は家賃を欲しがる
食料品店 ブルークロス保険 ガス電気代金 コロンブス騎士会
ふんぞり返って電話の雪や幽霊の駐車を夢見ることもできない

いやだ!結婚しないぞ!永遠に結婚しないぞ!
だがまてよ   きれいでおしゃれな女と結婚したとする
背が高くて青白くって優雅な黒いドレスに長い黒い手袋
一方の手にシガレット・ホールダーもう一方の手にハイボール・グラス
そして最上階のペントハウスに暮らす
そこからだとニューヨークがぜんぶ見えて晴れるともっと遠くが見える
だめだ そんな楽しい牢獄の夢と結婚するなんて考えられない

ああ でも愛ってものをどう思う 愛のことを忘れていた
愛することができないっていうんじゃない
靴を履くのと同じぐらい妙なことだと考えているだけなんだ
もともと母さんに似た女の子とは結婚したくなかった
イングリッド・バークマンは昔っから高値の花
いまもひとりくらい女の子はいるんだろうがもう結婚しちゃっている
男相手は好きじゃないし・・・
でもだれか見つけなくっちゃ!
なぜって六十になって結婚してないとどうなる
マンションに一人暮らしでパンツに小便の染みををつけたりして
ほかの男はみんな結婚している!ぼくのほかは全世界が結婚している!

ああ でも 分かっているんだ まあまあのぼくぐらいにまあまあの女なら
まあまあの結婚になるはずなんだ
異国の金ぴか衣装で淋しくエジプト人の恋人を待つ「彼女」みたいに
二千年の歳月と命の湯浴みを奪われたまま   ぼくも待つぞ



          グレゴリー・コオソ(Gregory corso)


 

2010/04/21

覚えている(remember)


俺はね、覚えてるよ
あのたき火は二人でつけたんだ
夕方まで待って
寒くなるまで待って
そして拾ってきたマキと
火を起こす為の新聞紙を持ってきて
君がライターで火をつけた
俺は横から吹いた
火はついてよく燃えた
お湯を沸かして
焼酎をわって すごく暖まった
その時は
火の暖かさとお酒の酔いで
二人はすごく幸せだった
愛の中にいたと思う
その為のベッドもあった


次の日 火は消えていた
君はマキをくべる事をやめた

俺はというと
その帰り道からそのままトボトボと旅に出た
今でもたき火はするよ
けど
全部一人でやってるよ

二人でつけた たき火は
何であんなにあったかかったんだろうね。



        ロイ・ラプターズ(Roy Raptores)


    
         

2010/04/20

オレンジ(oranges)



初めて女の子といっしょに
歩いたのは、十二のときだった。
外は寒くて、ジャケットの中の
二つのオレンジが重かった。
十二月。足の下で
霜柱が音を立てた。白い息を
吐きながら、彼女の家の方に
歩いて行った。昼も夜も、
どんな天気の日にも
黄色い門灯がついている家だった。
犬がおれを見て吠えた。やがて
彼女が手袋をはめながら
出てきた。ルージュをさした顔が
微笑んでいた。おれも笑みを返し
肩にそっと手をのせ、先に
立って通りを歩き、
中古車置き場と
植えたばかりの並木を横切った。
やがておれたちはドラッグストアの前で
白い息を吐いていた。中に
入った。小さなベルが鳴って、
両脇に商品の並んだ通路から
店のおばさんが出てきた。
生地が段々に重なった
お菓子の方を向いて、
何が欲しいか彼女にたずねた。
目がきらっと光って、口元が
ほころび始めた。おれは、
ポケットの中で五セント玉をもてあそんでいたが、
彼女が十セントのチョコレートを取った時も
黙っていた。
おれはポケットから、五セント玉と
オレンジ一個を取り出し、
何も言わずにカウンターの上に
置いた。顔を上げると
おばさんの目とおれの目が合った。
どういうことか、よく分かってくれているその目が
おれの目を
見詰めていた。

外に出た。
時々車が横を通り過ぎた。
古いコートのような霧が
木と木の間にかかっていた。
おれは彼女の手を握って
二ブロック歩いた。
手をはなすと
彼女はチョコレートの包み紙を破いた。
おれは残ったオレンジの皮をむいた。
オレンジは灰色の十二月を背景に
とてもまぶしかった。
ちょっと離れたところにいた人は、
両手の中で火を起こそうとしていると
思ったかもしれない。



           ゲアリー・ソオト(Gary soto)

2010/04/16

くらげの唄


ゆられ、ゆられ
もまれもまれ
そのうちに、僕は
こんなに透きとおってきた。

だが、ゆられるのは、らくなことではないよ。

外からも透いてみえるだろ。ほら。
僕の消化器のなかには
毛の禿びた歯ぶらしが一本、
それに、黄色い水が少々。

心なんてきたならしいものは
あるもんかい。いまごろまで。
はらわたもろとも
波がさらっていった。

僕?僕とはね、
からっぽのことなのさ。
からっぽが波にゆられ、
また、波にゆりかえされ。

しおれたかと思うと、
ふじむらさきにひらき、
夜は、夜で
ランプをともし。

いや、揺られてるのは、本当は
からだを失くしたこころだけなんだ。
こころをつつんでいた
うすいオブラートなのだ。

いやいや、こんなにからっぽになるまで
ゆられ、ゆられ
もまれもまれた苦しさの
疲れの影にすぎないのだ!



            金子光晴(かねこ みつはる)

2010/04/14

夢の歌4(The Dream songs4)


ぴちっとしたうまそうなからだに
チキンパプリカをぎゅっと詰めて女は二度
色目をつかった。
魅かれてふらっとして、もの欲しげに見返し、
亭主とほかの4人がそこにいなかったら
ふいに女に抱きついたか、

その小さい足もとに泣きついてこう言ってただろう、

「あなたはこの何年もの夜ヘンリーが目をくらつかせた
 いちばん強烈な
 女性です、ブリリアンスさん。」
 
でも実際は(落ち込んで)
自前のスプモーニに取り付くだけ。

ボーンズ卿曰く、
世の中は、うまそうな女だらけよ。

黒い髪、ラテン系の肌、伏し目がちの
宝石の目・・・脇のあの野郎の ご馳走・・・座るとまた
なんてすげえ尻、それが遠い向こうだ。
レストランはざわついてる。
女は火星にいるみたいなもの。
どこでツキが落ちたんだ。
ヘンリーはだめという決まりなんだ。
 
ボーンズ卿曰く、その通りよ。



          ジョン・ベリマン(John berryman)

2010/04/12

告白(a confession)


「俺は不器用な奴だ。
 うねり荒れる魂の割に持っている言葉は多くないし
 それに俺は、これが問題なのだが、
 俺は多分呪われている、
 
 言いたい事を話そう。

 言葉ってのはたいがい純粋で水みたいなもんで、
 俺の受けた呪詛はそれらを一瞬で穢しちまうから
 口から出た時はすでに奇形になっている、
 だから、詩を書こうと思ったんだ、
 自分でもいいアイデアだと思ってるよ。
 つまり、みんなまとめて
 サーカスに売っぱらっちまおうって寸法さ。

 本当に言いたい事を話そう。

 それは何かっていうと、愛についてなんだが、
 雨や雲や風や光のやり方で君を愛そうと思った、
 やっぱり俺は旅人で詩人っていう最悪の運命の人間だから。
  
 イヌやネコやウサギや金魚やカエルやヘビやナメクジや
 俺とあんたの呪いの話をしながらずーっと考えてた、
 まだ生まれていない言葉と君の事と愛について。

 帰り、深夜5万メートルの道を歩きながらふと思った事は
 前にもどこかでこんなことがあった、決して初めてじゃあ無く、
 蓄積だった、それはデジャヴュの蓄積だったんだ、
 だから俺は君に伝える事にした、愛してんだ、
 そして済まなく思う、だってこの詩はメチャクチャだろ?
 けどあんたなら解読してくれると思って。
 俺という人間を、10年も見てきてくれたあんたなら。」


            ロイ・ラプタース (Roy Raptores)

2010/04/07

エルザの語ること



 
お前は言った
「この詩はくらいわね そうよ でも 幸福が飛び去ったとき
 どれほどなぐさめになってくれたでしょう
 窓をしめましょうよ 陽の光が差し込んで
 あなたの大好きな写真が褪せてしまうといけないから」

また こんなことも言った
「私達の愛情が一つの世界をはじめるのよ
 でも 誰でも気軽に話し合えるようなその世界、
 ランスロットや円卓に用はないわね
 鏡の代わりに 不格好な剣など提げていた
 イヅーやヴィヴィアンヌやエスクラモンドなんか もうたくさんね
 
 私の眼の愛の百合の花 いいえ 他の誰でも駄目
 その人達のふるい媚薬では あなたを酔わせることは出来ない
 昼間の廃墟は、ただの残骸です
 妖術の邪魔をするため
 二人の影をかっきり印す時間です

 夜は それでも昼よりやさしい時刻です
 清らかな空にむかって息のできない人達に 恥あれ
 子供たちをみてすぐ 笑顔をむけられない人達に 恥あれ 
 道ばたの唄 牧の花に 涙ながさない人達に 恥あれ」

また こんなことも言った
「雷様のようなオーケストラはやめて頂戴 
 だって 今頃は、あのあわれな人達が
 辞書なんか引っぱることができないで
 親しみぶかい平凡な日常語で
 頭をかしげ低い声で 繰り返し繰り返し
 考え込んでいる時刻なんですから
 
 ねぇ、私を愛してくださるなら きれいな水を一杯もってきて!
 人々の願いを和めるきれいな水
 あなたの創から迸る(ほとばしる)血ではあっても あなたの詩は
 屋根の上の屋根屋さんのように
 巣ごもる所のない小鳥らのためにうたうのね
 
 私達のゆくての不吉な情勢の下でも
 『つづけ』と希望の声をかけるあなたの詩
 金銭を踏み越えて 人間の声がかちどきあげ
 死ぬよりほかにすべのない人々に
 生きる理由をはっきり与えるあなたの詩
 
 人々があくせくし、血を流し、寒さに震えているところで
 足並みをかるくする掛声のようなあなたの詩が、ちょうど
 夜明けのブラックコーヒーか
 街角で ばったりあった無二の旧友みたいであってほしいの

 時々 あなたが夢想していた人達のためでなく
 ほんとうに苦しみを歌いたい人達のため
 その人達の思い出は 重たい鎖のきしめきのようでした
 あなたの血のなかに曙の光がめざめながら
 帆船にあたる風のように あの人達の言葉があなたの心をうつ
 ねぇ あの人達のためにうたってくださいね

 ほんとうに私を愛してくださるなら 愛してくださるなら
 あなたが描く私の肖像は 菊の芯をあるき廻る虫のように
 テーマのなかにかくれたテーマ
 来るべき太陽と 新しい愛情を描き落とさずにくださいな」



              ルイ・アラゴン(Louis Aragon)
     

 

2010/04/01

犯人(Guilty)


その男はどう見ても犯人に思えた。
醜悪で、貧相で、不潔だった。なにより
発見されたとき森のなかで女の遺体の
そばにいた。隣人の話では、男はいつも
リスの死骸、切り刻んだイヌ、ときには
ヘビと遊んでいたという。近寄るのを
許してくれるのはこうしたものだけ
だったからだそうだ。「おれを見てくれ」、
老人は観念したようにあっさり言った。
「おれはもうあの世にいったようなもんだが、
 死が辱めるように辱められた
 生き物は見ていられないのだ。
 道ばたの血まみれのオポッサム、アリに
 目を食われる小鳥。瀕死のネズミだって
 恥辱を思って独りになりたがっている。
 たしかにおれは女の顔の泥やからだについた
 血を拭ってやった。髪の毛を梳かしてやった。
 女の足元で、おれのイヌもやってたみたいに、
 二日間寝た。できるだけきちんと服を
 着せてやった。ほったらかしの感じだったからだ。
 草むらに捨てられたゴミみたいだった。
 男がそうしたんだからもうどうしようもないって
 感じだった。どのぐらい独りで
 いることになるんだろうってずっと考えてた。
 分かってたんだ   警察がきて女の写真を撮る、
 あられもない裸の写真が新聞に載る、読者は
 朝飯を食いなががらそれを眺める。せめて
 あの魂に準備の時間をやりたかったんだ。」



          ジャック・ギルバート(Jack gilbert)

2010/03/21

私達の 暮らしは


目覚めると
まずは 揺すって見る
息の かぼそい 弟を

となりの チョルのように
永久の 眠りに つきそうだから


オモニの 帰りが 遅いと
風の音にも 耳を そばだて
胸さわぎして

夜通し
眠れぬままに 夜を明かす

井戸のある家の おばさんの ように
自殺したのではないかと

わたしたちの 暮らしは
ただ生きるのではない
生き残る ことなのだ


 
       チャン ジンソン(張真晟)

張真晟は北朝鮮の詩人です。この人の詩集、「 わたしの娘を100ウォンで売ります」を読んだとき、どんな映像や記事よりも北朝鮮の現在の在り方が生々しく泥に手を突っ込んだ様に伝わりました。
詩による伝達の威力の凄さを、ある意味初めて気付かせてくれた詩人と詩集です。

この詩集の中からもう一つ、載せておきたい詩が一編あります。

     

       わたしたちの ご飯は


わたしたちの ご飯は
米の ご飯では ない

木の皮だ

わたしたちの ご飯は
山で 育つ
岩を 裂き 育つ
口に するには あまりに 痛い
わたしたちの ご飯は 痛い

分厚い 木の皮

貧しさを ぐつぐつと
煮立て
取り出しては 死ぬほどに 
槌うち
また 煮詰め 槌うつ
首を 絞める 荒縄のよう
かならず 入れるのは
苛性ソーダ
こうして ようやく
どろどろの 木の皮

それでも ご飯だと
椀に 盛るために
わたしたちは 木で
ご飯を つくる
ため息の 中で
ご飯を つくる

ああ そうしてできる
その いくつかの 塊は
わたしたちの 涙の 結晶
見るほどに 締めつけられる
のど元

こんな 飯が どこにある
その 飯すらも ない
食って生きる 全世界の
生命たちよ
この国では 山の ことごとくが
裸になっても
それでも 木が 足りず
数百万人が

飢えて 死んだ



          

  

2010/03/15

助言


みんな、云っとくがな、
生まれるってな、つらいし
死ぬってな、みすぼらしいよ

んだから捕まえろよ
ちっとばかし 愛するってのを
その間にな。


      ラングストン・ヒューズ(Langston Hughes)

2010/03/12

まぐさ(Hay for the Horses)


その男は夜の半分をかけて
はるか遠いサンワキーンから
マリポーザを通過して
危険な山道を登って
朝の八時トラックの荷台に
干し草を満載して
納屋の裏に到着した。

われわれはウィンチとロープと
手鉤を使って暗い納屋のなかで
粗い目のレッドウッドのたるきに届くまで
高々と干し草の梱を積んだ。

アルファルファのきれっぱしが
屋根板の隙間の光に舞った。
干し草のほこりが汗ばんだシャツと
靴に入りこんで痒かった。

昼飯どき外の暑い馬囲いの
ブラック・オークの木陰のしたで、
老いた牝馬は昼飯の桶に鼻づらをつっこみ
きりぎりすが草むらで鳴いているとき、
男は言った、「おれはいま六十八だ。
干し草運びを始めたのは十七のときだった。
やりだしたその日に思ったもんだ、
一生こんなことをするのは御免だって。
ひでぇもんだ、おれはそればっかり
やってきてしまった。」


         ゲアリー・スナイダー(Gary Snyder) 

2010/03/10

あの頃、冬の日曜日には(Those Winter Sunday)


日曜日も、父は朝早く起き出し
薄暗い寒さの中で服を着て
毎日の力仕事と寒風に
ひび割れた手で、埋めておいた火を起こす。
誰もありがとうと言ったことがない。

目覚めると、寒さがぱちぱちと音を立てるのが聞こえたものだ。
部屋が暖まると、父が声をかけてくれる。
あの家の、いつ爆発するとも知れない怒りを恐れつつ
おれはゆっくり起き上がり、着替えるのだ。

そして、寒さを追い出し、
よそいきの靴を磨いてもくれた父に
そっけない挨拶をしたものだ。
愛の厳粛で孤独な任務について
一体おれは何を知っていたのか、一体何を?

          
            ロバート・ヘイデン(Robert Hayden)


親父の事はここ数年、よく考える様になった。
やり方は違ったが、感じ方はよく似ている私の親父は自分の道より
女をとり、家族をとり、今では良き家長として我が家を治めている。
たまに親父と一緒に旅をする夢を見る。
同じぐらい大きなリュックを背負って、地下鉄のホームに立っていてこれまた大きな地図を二人で眺めてる、
たしかそんな夢だった。だいぶうろ覚えですけど。

2010/03/09

青い目(Blue Eyes)


まだ赤ん坊みたいな肉付きの
ミルクの匂いのする女の子らとくらべれば
彼女はりっぱなものだ。
朝、自分の年齢も、自分の子供らも、踏んずけて、
ベットから大股で抜けでてくるとき
青い目がきらっと警告を発する。

「この男たちまとめていい気分にしてやれるわ」
彼女は「ニューヨーク・レヴュー・オブ・ブックス」の
恋人募集欄から目を上げていった。

戦争、災害、背筋の冷える
不安の記事を
読んでやると、
青い目は揺らぎ、いかにも
アメリカの子らしく眠る。

「これまでで最高でしょ?」
彼女はかれのかたわらに滑りこみながら言った。
青い目はかれの惨めな年齢を笑っている。

濃い霧を通して波の寄せる音がする。
湿気が網戸の窓から流れ込む。
「すてきな愛の詩って、まだなの?」
彼女はせがみつづける。

眠るまえ彼女はかれの頭のなかの
詩の一行だった。
そのままにしておきたかったのだが、
いまはもう消えてしまった。


          ハーヴェイ・シャピロ(harvey shapiro)
          訳:沢崎 順之助

記念すべき一発目はこの詩にしました。ぼーっと外の雨を眺めているとき、何となくしっくりしたからです。
隣ではルームメイトの外人がなんやら口喧嘩しています。
今日は猫も鳥も雨宿り。ビールでも飲んでゆっくりしよ。

これからもこんな感じで詩や文章の一小節でも紹介出来たらな、と思ってます。どうぞ宜しく。