道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/05/27

あけがたの歌




燈を消そう。そのうちもうあけがただよ。
水腫のあま皮をはがす剃刀のような
鋭利なあさやけ。
ひらかれた窓からながれている
爽やかな悲愁。

 紙幣。このひとときには、それも
  うすぼけた紙切れとしか見えない。
 窓外の風景は、しらけきって、ねざめぎわの夢のあとを追って
  どこかへ逃げてゆこうとさまよう。

 僕も、僕のつれあるいている影も、ゆくところがない。

地平線、

そのうえに重なる灰色の屍。
るいるいとしたからだ。

大河の氾濫につづく洪水。
そのうえをわたって
細いマッチ棒のような錐柱。
ならぶ百本の煙突。

遠い海峡の潮の音。

かえらない為にとびたつ
戦闘機。



ががぶたや、水かまきりや、頭もしっぽも
ずんぐりしためくら魚どもが
泥沼のなかを横行している。
陰謀と、嘘と、醜さが、こんなにはっきり
みえていることはない。
出発しよう。さあ。
まだ誰も起きてない街をそっと通りぬけて、

敷石のしたからきこえてくる
亡びたジャズの雨音。

うなされている画ビラ。

涙にしめったコンクリと、
汗をかいた銃。

あのながい塀のうちは
屈従、
屈従、
屈従、
どんな恥も
屈従よりはいくらかましだ。

いなずま。
いや、そうじゃないよ。あれは、
誰かが白鶴となって朝空に舞い上がるため
じぶんの頭に、弾をうちこんだのだ。



         金子光晴