道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/04/07

エルザの語ること



 
お前は言った
「この詩はくらいわね そうよ でも 幸福が飛び去ったとき
 どれほどなぐさめになってくれたでしょう
 窓をしめましょうよ 陽の光が差し込んで
 あなたの大好きな写真が褪せてしまうといけないから」

また こんなことも言った
「私達の愛情が一つの世界をはじめるのよ
 でも 誰でも気軽に話し合えるようなその世界、
 ランスロットや円卓に用はないわね
 鏡の代わりに 不格好な剣など提げていた
 イヅーやヴィヴィアンヌやエスクラモンドなんか もうたくさんね
 
 私の眼の愛の百合の花 いいえ 他の誰でも駄目
 その人達のふるい媚薬では あなたを酔わせることは出来ない
 昼間の廃墟は、ただの残骸です
 妖術の邪魔をするため
 二人の影をかっきり印す時間です

 夜は それでも昼よりやさしい時刻です
 清らかな空にむかって息のできない人達に 恥あれ
 子供たちをみてすぐ 笑顔をむけられない人達に 恥あれ 
 道ばたの唄 牧の花に 涙ながさない人達に 恥あれ」

また こんなことも言った
「雷様のようなオーケストラはやめて頂戴 
 だって 今頃は、あのあわれな人達が
 辞書なんか引っぱることができないで
 親しみぶかい平凡な日常語で
 頭をかしげ低い声で 繰り返し繰り返し
 考え込んでいる時刻なんですから
 
 ねぇ、私を愛してくださるなら きれいな水を一杯もってきて!
 人々の願いを和めるきれいな水
 あなたの創から迸る(ほとばしる)血ではあっても あなたの詩は
 屋根の上の屋根屋さんのように
 巣ごもる所のない小鳥らのためにうたうのね
 
 私達のゆくての不吉な情勢の下でも
 『つづけ』と希望の声をかけるあなたの詩
 金銭を踏み越えて 人間の声がかちどきあげ
 死ぬよりほかにすべのない人々に
 生きる理由をはっきり与えるあなたの詩
 
 人々があくせくし、血を流し、寒さに震えているところで
 足並みをかるくする掛声のようなあなたの詩が、ちょうど
 夜明けのブラックコーヒーか
 街角で ばったりあった無二の旧友みたいであってほしいの

 時々 あなたが夢想していた人達のためでなく
 ほんとうに苦しみを歌いたい人達のため
 その人達の思い出は 重たい鎖のきしめきのようでした
 あなたの血のなかに曙の光がめざめながら
 帆船にあたる風のように あの人達の言葉があなたの心をうつ
 ねぇ あの人達のためにうたってくださいね

 ほんとうに私を愛してくださるなら 愛してくださるなら
 あなたが描く私の肖像は 菊の芯をあるき廻る虫のように
 テーマのなかにかくれたテーマ
 来るべき太陽と 新しい愛情を描き落とさずにくださいな」



              ルイ・アラゴン(Louis Aragon)