道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/04/16

くらげの唄


ゆられ、ゆられ
もまれもまれ
そのうちに、僕は
こんなに透きとおってきた。

だが、ゆられるのは、らくなことではないよ。

外からも透いてみえるだろ。ほら。
僕の消化器のなかには
毛の禿びた歯ぶらしが一本、
それに、黄色い水が少々。

心なんてきたならしいものは
あるもんかい。いまごろまで。
はらわたもろとも
波がさらっていった。

僕?僕とはね、
からっぽのことなのさ。
からっぽが波にゆられ、
また、波にゆりかえされ。

しおれたかと思うと、
ふじむらさきにひらき、
夜は、夜で
ランプをともし。

いや、揺られてるのは、本当は
からだを失くしたこころだけなんだ。
こころをつつんでいた
うすいオブラートなのだ。

いやいや、こんなにからっぽになるまで
ゆられ、ゆられ
もまれもまれた苦しさの
疲れの影にすぎないのだ!



            金子光晴(かねこ みつはる)