道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/04/27

おんなの詩


いいこと、あたしの全人生は
結ばれている
しあわせに
おとうさんは朝ご飯を作っている
あたしは豚みたいに太る
でなければ食べ物がまるでない
そしておとうさんは
再び
まるで働かない
そしてあたしは願う
自由とはどういう感じか知りたいと

おんなに職があっても
みんなはあんたを働かせようとはしない
でなければ職がまるでない
あたしは去勢されたみたい
(そう それはおんなにも起こる)

おんなはセックスの対象物 あんたがかわいければ
でも愛なんてない
でなければ愛があってもセックスしてくれない
 あんたが太っていれば
でぶの黒人女よ引っ込め 母親にでもなれ
おばあちゃんはたくましい でもおんなじゃない
遊び女 ロマンティックな女 愛を必要とする女
男を追いかける女 男を食べる女 汗かき女
セックスしたがり屋 愛を求める女

おんなは靴に空いた穴
リルの妹にドレスを買うようなもの
彼女は言う そんなことをしてはいけないわ
あんたわかっているでしょう
よく   そんなことしてはいけないってこと

立派な服を着た福祉係の方には
せいぜい微笑みましょう
でもお互いには微笑みを交わすことはない
それはあたしが知っているたった一つの微笑み
あんたの妹は尻軽女
微笑むどこじゃないわ
喜びなんて卵を孕んだゴキブリを見つけ
そしてそれを潰すこと
恋人を見つけるなんて御免被るわ
あっちへ行け 消えてしまえ 帰れ
あたしを興奮させないで あんた 黒い犬
あたしのことなどかまわないで頂戴
あんたは良識がない
あんたなんて糞喰らえ
あたしにつきまとわないでよ

女は汚れた家
昨日のスイカがそのままだ
そしてそれは月曜の涙
なぜなら真のご婦人方はご存じない
すべての女の
知的な荒廃を掃除する方法を
感情的になるのを避ける方法を
「そうだあんた あたしはあの男と
 結婚しようと思っていた
 でもあいつには学位がなかったのさ」

女は曲がった脚が見えるミニ・スカート
かつらを被ること 髪をブロンドに染めること
乳房の傷跡
死んで生まれること 軽蔑すること
あんたの娼婦になること
踵ががたがたの靴 ぶっこわれること 
釘を打たれること おしろいを塗りたくること
あたしに立ち向かう真実
あたしの全人生は結ばれている
不幸に
それはたった一つの現実
あたしが知っている


         ニッキ・ジョバンニ

2010/04/22

結婚(marriage)


結婚しようかな まともになろうかな
隣の女の子をビロード服とフォースタス頭巾で驚かしちゃおうかな
誘うのは映画館じゃなくって共同墓地
狼人間浴槽や二股クラリネットの話ありったけしちゃって
それから欲情してキスしてありったけ前戯しちゃって
彼女はそこまでよって言って、僕はちゃんと理由が分かって
怒らないで言う   感じるだろう!感じるっていいだろう!
それとも両腕で抱きすくめて古いいびつな墓石にもたれかかって
満天の星空に一晩中せがみつづけようかな

両親に紹介される
背筋を伸ばして髪の毛を撫でてネクタイで首締めて
両膝を合わせて拷問椅子に腰をおろす
まだ聞いちゃいけないんだろうな   トイレはどこですかなんて
自分でない感じになるにはどうしたらいい
フラッシュ・ゴードン石鹸がやたら頭に浮かぶ
ああ 若者には恐ろしい事なんだ
両親のまえに坐るっていうのは 
親の方は考えている
いちども見たことがない男だ!うちのメアリー・ルーが欲しいだと!
紅茶と手作りクッキーのあとに聞かれる   お仕事は何をなさって?
言うべきなんだろうか   じゃあ許していただけますか
言ってほしいんだ   いいとも結婚しなさい ぼくらは娘を一人失うが
息子がひとり増えることになる
そしたら聞いていいんだろうな   トイレはどこですかって

ああ やれやれ 次は結婚式だ!居並ぶ花嫁の家族と友人
一握りの花婿の友人 それがみんな下品な野郎ヒゲをはやして
酒と食い物にありつけるのを待っているだけ
そして牧師だ!   これまでマスかいてたなという目つきをして聞く
この女を正式に結婚した妻としてめとりますか
なに言っていいのか震えながら言う   パイ グルー!
花嫁にキスするとあのばかげた連中がぼくの背中をどやしつける
おい さあもうみんなおまえのもんなんだぞ ハッハッハ!
連中の目にはハネムーンの扇情シーンが映っている
それからあの米粒とカラカラなる空き缶と靴
ナイアガラの滝!新婚の大群!新郎!新婦!花束!チョコレート!
それがみんなこじんまりしたホテルに流れこむ
それがみんな今夜同じことをやる
平然としたフロントはなにが始まろうとしているか知っている
ロビーのゾンビーはなにが始まるか知っている
口笛を鳴らすエレベーターボーイはなにかを知っている
みんな知ってるんだ!ぼくはもうなにもやりゃしないぞ!
一晩中起きてるぞ!ホテルマンを睨みつけてやるぞ!
そしてわめく   ハネムーンはいやだ!ハネムーンはいやだ!
そして絶頂寸前の部屋部屋に乱入していって
叫ぶ   ラジオ・ベリー!キャット・シャベル!
ああ いつまでもナイアガラにいてやるぞ 大滝の裏の暗い洞窟に棲みつくぞ
狂った花婿になって潜んでるぞ
策略で結婚をぶちこわすぞ 重婚には祟ってやるぞ
離婚の聖者になるぞ

だけどやっぱり結婚しよう まともになろう
なんてすてきなんだ 家に帰ると女房が待っている
ぼくは暖炉のそばに坐る 女房は台所にいる
エプロン姿で若くて愛らしくて ぼくの赤ちゃんを欲しがる
ぼくがすごく気に入っていて ローストビーフを焼いている
声をあげて飛んでくる ぼくはパパ・チェアーから立ち上がって
言う   クリスマスの歯!輝く頭脳!アップル・デフ!
もうなんてすごい亭主なんだろう!やっぱり結婚しよう!
することはいくらでもある 夜遅くジョーンズ家に忍び込んで
亭主のゴルフクラブを1920年のノルウェイの本で覆ってやる
芝刈り機にランボーの絵をぶらさげてやる
タヌ・トゥーヴァの切手を杭垣一面に貼付けてやる
カインドヘッド夫人が共同募金を集めにきたら
つかまえて言ってやる   不吉な前兆が空に見えてますよ!
そして市長が投票を頼みにきたら言ってやる
いつ捕鯨を禁止するつもりですか!
牛乳配達が来たら瓶の中に伝言をいれてやる
ペンギンダストだ ペンギンダストを頼む ペンギンダストが欲しい

でももし結婚してそれがコネティカット州で雪が降ってるとする
女房が赤ん坊を産む ぼくは眠れずにくたくたで
幾晩も寝ないで静かな窓ガラスに頭をつけて過去はぜんぶ遠い昔で
気がつくといちばん普通の状態に陥っていてぶるぶる震えていて
小枝の染みでもマーロン・コイン・スープでもない責任てのを自覚して
ああ どんなことになちゃうんだ!
きっと赤ん坊のおしゃぶりはゴム製のタキツスにするだろう
ガラガラのかわりにバッハのレコードの欠片を袋詰めにするだろう
ベッドには一面デラ・フランチェスカの絵を貼付けるだろう
よだれかけにはギリシャ語のアルファベットを縫いつけるだろう
ベビーサークルには天井のないパルデノン神殿を建てるだろう

いや たぶんぼくが父親になるなら
田舎じゃない雪じゃない静かな窓ガラスじゃない
暑くて臭くって緊張するニューヨーク市だ
七階の階段壁の裏にはゴキブリとネズミがいる
太ったライヒ的女房がジャガイモを食いながら叫ぶ   仕事見つけな!
そしてバットマンに夢中の鼻たらしのガキどもが五人走り回る
そして隣人はみんな歯抜けで髪の毛がばさばさで
十八世紀の魔女の集団みたいで
みんな家に入りこんでテレビを見たがる
家主は家賃を欲しがる
食料品店 ブルークロス保険 ガス電気代金 コロンブス騎士会
ふんぞり返って電話の雪や幽霊の駐車を夢見ることもできない

いやだ!結婚しないぞ!永遠に結婚しないぞ!
だがまてよ   きれいでおしゃれな女と結婚したとする
背が高くて青白くって優雅な黒いドレスに長い黒い手袋
一方の手にシガレット・ホールダーもう一方の手にハイボール・グラス
そして最上階のペントハウスに暮らす
そこからだとニューヨークがぜんぶ見えて晴れるともっと遠くが見える
だめだ そんな楽しい牢獄の夢と結婚するなんて考えられない

ああ でも愛ってものをどう思う 愛のことを忘れていた
愛することができないっていうんじゃない
靴を履くのと同じぐらい妙なことだと考えているだけなんだ
もともと母さんに似た女の子とは結婚したくなかった
イングリッド・バークマンは昔っから高値の花
いまもひとりくらい女の子はいるんだろうがもう結婚しちゃっている
男相手は好きじゃないし・・・
でもだれか見つけなくっちゃ!
なぜって六十になって結婚してないとどうなる
マンションに一人暮らしでパンツに小便の染みををつけたりして
ほかの男はみんな結婚している!ぼくのほかは全世界が結婚している!

ああ でも 分かっているんだ まあまあのぼくぐらいにまあまあの女なら
まあまあの結婚になるはずなんだ
異国の金ぴか衣装で淋しくエジプト人の恋人を待つ「彼女」みたいに
二千年の歳月と命の湯浴みを奪われたまま   ぼくも待つぞ



          グレゴリー・コオソ(Gregory corso)


 

2010/04/21

覚えている(remember)


俺はね、覚えてるよ
あのたき火は二人でつけたんだ
夕方まで待って
寒くなるまで待って
そして拾ってきたマキと
火を起こす為の新聞紙を持ってきて
君がライターで火をつけた
俺は横から吹いた
火はついてよく燃えた
お湯を沸かして
焼酎をわって すごく暖まった
その時は
火の暖かさとお酒の酔いで
二人はすごく幸せだった
愛の中にいたと思う
その為のベッドもあった


次の日 火は消えていた
君はマキをくべる事をやめた

俺はというと
その帰り道からそのままトボトボと旅に出た
今でもたき火はするよ
けど
全部一人でやってるよ

二人でつけた たき火は
何であんなにあったかかったんだろうね。



        ロイ・ラプターズ(Roy Raptores)


    
         

2010/04/20

オレンジ(oranges)



初めて女の子といっしょに
歩いたのは、十二のときだった。
外は寒くて、ジャケットの中の
二つのオレンジが重かった。
十二月。足の下で
霜柱が音を立てた。白い息を
吐きながら、彼女の家の方に
歩いて行った。昼も夜も、
どんな天気の日にも
黄色い門灯がついている家だった。
犬がおれを見て吠えた。やがて
彼女が手袋をはめながら
出てきた。ルージュをさした顔が
微笑んでいた。おれも笑みを返し
肩にそっと手をのせ、先に
立って通りを歩き、
中古車置き場と
植えたばかりの並木を横切った。
やがておれたちはドラッグストアの前で
白い息を吐いていた。中に
入った。小さなベルが鳴って、
両脇に商品の並んだ通路から
店のおばさんが出てきた。
生地が段々に重なった
お菓子の方を向いて、
何が欲しいか彼女にたずねた。
目がきらっと光って、口元が
ほころび始めた。おれは、
ポケットの中で五セント玉をもてあそんでいたが、
彼女が十セントのチョコレートを取った時も
黙っていた。
おれはポケットから、五セント玉と
オレンジ一個を取り出し、
何も言わずにカウンターの上に
置いた。顔を上げると
おばさんの目とおれの目が合った。
どういうことか、よく分かってくれているその目が
おれの目を
見詰めていた。

外に出た。
時々車が横を通り過ぎた。
古いコートのような霧が
木と木の間にかかっていた。
おれは彼女の手を握って
二ブロック歩いた。
手をはなすと
彼女はチョコレートの包み紙を破いた。
おれは残ったオレンジの皮をむいた。
オレンジは灰色の十二月を背景に
とてもまぶしかった。
ちょっと離れたところにいた人は、
両手の中で火を起こそうとしていると
思ったかもしれない。



           ゲアリー・ソオト(Gary soto)

2010/04/16

くらげの唄


ゆられ、ゆられ
もまれもまれ
そのうちに、僕は
こんなに透きとおってきた。

だが、ゆられるのは、らくなことではないよ。

外からも透いてみえるだろ。ほら。
僕の消化器のなかには
毛の禿びた歯ぶらしが一本、
それに、黄色い水が少々。

心なんてきたならしいものは
あるもんかい。いまごろまで。
はらわたもろとも
波がさらっていった。

僕?僕とはね、
からっぽのことなのさ。
からっぽが波にゆられ、
また、波にゆりかえされ。

しおれたかと思うと、
ふじむらさきにひらき、
夜は、夜で
ランプをともし。

いや、揺られてるのは、本当は
からだを失くしたこころだけなんだ。
こころをつつんでいた
うすいオブラートなのだ。

いやいや、こんなにからっぽになるまで
ゆられ、ゆられ
もまれもまれた苦しさの
疲れの影にすぎないのだ!



            金子光晴(かねこ みつはる)

2010/04/14

夢の歌4(The Dream songs4)


ぴちっとしたうまそうなからだに
チキンパプリカをぎゅっと詰めて女は二度
色目をつかった。
魅かれてふらっとして、もの欲しげに見返し、
亭主とほかの4人がそこにいなかったら
ふいに女に抱きついたか、

その小さい足もとに泣きついてこう言ってただろう、

「あなたはこの何年もの夜ヘンリーが目をくらつかせた
 いちばん強烈な
 女性です、ブリリアンスさん。」
 
でも実際は(落ち込んで)
自前のスプモーニに取り付くだけ。

ボーンズ卿曰く、
世の中は、うまそうな女だらけよ。

黒い髪、ラテン系の肌、伏し目がちの
宝石の目・・・脇のあの野郎の ご馳走・・・座るとまた
なんてすげえ尻、それが遠い向こうだ。
レストランはざわついてる。
女は火星にいるみたいなもの。
どこでツキが落ちたんだ。
ヘンリーはだめという決まりなんだ。
 
ボーンズ卿曰く、その通りよ。



          ジョン・ベリマン(John berryman)

2010/04/12

告白(a confession)


「俺は不器用な奴だ。
 うねり荒れる魂の割に持っている言葉は多くないし
 それに俺は、これが問題なのだが、
 俺は多分呪われている、
 
 言いたい事を話そう。

 言葉ってのはたいがい純粋で水みたいなもんで、
 俺の受けた呪詛はそれらを一瞬で穢しちまうから
 口から出た時はすでに奇形になっている、
 だから、詩を書こうと思ったんだ、
 自分でもいいアイデアだと思ってるよ。
 つまり、みんなまとめて
 サーカスに売っぱらっちまおうって寸法さ。

 本当に言いたい事を話そう。

 それは何かっていうと、愛についてなんだが、
 雨や雲や風や光のやり方で君を愛そうと思った、
 やっぱり俺は旅人で詩人っていう最悪の運命の人間だから。
  
 イヌやネコやウサギや金魚やカエルやヘビやナメクジや
 俺とあんたの呪いの話をしながらずーっと考えてた、
 まだ生まれていない言葉と君の事と愛について。

 帰り、深夜5万メートルの道を歩きながらふと思った事は
 前にもどこかでこんなことがあった、決して初めてじゃあ無く、
 蓄積だった、それはデジャヴュの蓄積だったんだ、
 だから俺は君に伝える事にした、愛してんだ、
 そして済まなく思う、だってこの詩はメチャクチャだろ?
 けどあんたなら解読してくれると思って。
 俺という人間を、10年も見てきてくれたあんたなら。」


            ロイ・ラプタース (Roy Raptores)

2010/04/07

エルザの語ること



 
お前は言った
「この詩はくらいわね そうよ でも 幸福が飛び去ったとき
 どれほどなぐさめになってくれたでしょう
 窓をしめましょうよ 陽の光が差し込んで
 あなたの大好きな写真が褪せてしまうといけないから」

また こんなことも言った
「私達の愛情が一つの世界をはじめるのよ
 でも 誰でも気軽に話し合えるようなその世界、
 ランスロットや円卓に用はないわね
 鏡の代わりに 不格好な剣など提げていた
 イヅーやヴィヴィアンヌやエスクラモンドなんか もうたくさんね
 
 私の眼の愛の百合の花 いいえ 他の誰でも駄目
 その人達のふるい媚薬では あなたを酔わせることは出来ない
 昼間の廃墟は、ただの残骸です
 妖術の邪魔をするため
 二人の影をかっきり印す時間です

 夜は それでも昼よりやさしい時刻です
 清らかな空にむかって息のできない人達に 恥あれ
 子供たちをみてすぐ 笑顔をむけられない人達に 恥あれ 
 道ばたの唄 牧の花に 涙ながさない人達に 恥あれ」

また こんなことも言った
「雷様のようなオーケストラはやめて頂戴 
 だって 今頃は、あのあわれな人達が
 辞書なんか引っぱることができないで
 親しみぶかい平凡な日常語で
 頭をかしげ低い声で 繰り返し繰り返し
 考え込んでいる時刻なんですから
 
 ねぇ、私を愛してくださるなら きれいな水を一杯もってきて!
 人々の願いを和めるきれいな水
 あなたの創から迸る(ほとばしる)血ではあっても あなたの詩は
 屋根の上の屋根屋さんのように
 巣ごもる所のない小鳥らのためにうたうのね
 
 私達のゆくての不吉な情勢の下でも
 『つづけ』と希望の声をかけるあなたの詩
 金銭を踏み越えて 人間の声がかちどきあげ
 死ぬよりほかにすべのない人々に
 生きる理由をはっきり与えるあなたの詩
 
 人々があくせくし、血を流し、寒さに震えているところで
 足並みをかるくする掛声のようなあなたの詩が、ちょうど
 夜明けのブラックコーヒーか
 街角で ばったりあった無二の旧友みたいであってほしいの

 時々 あなたが夢想していた人達のためでなく
 ほんとうに苦しみを歌いたい人達のため
 その人達の思い出は 重たい鎖のきしめきのようでした
 あなたの血のなかに曙の光がめざめながら
 帆船にあたる風のように あの人達の言葉があなたの心をうつ
 ねぇ あの人達のためにうたってくださいね

 ほんとうに私を愛してくださるなら 愛してくださるなら
 あなたが描く私の肖像は 菊の芯をあるき廻る虫のように
 テーマのなかにかくれたテーマ
 来るべき太陽と 新しい愛情を描き落とさずにくださいな」



              ルイ・アラゴン(Louis Aragon)
     

 

2010/04/01

犯人(Guilty)


その男はどう見ても犯人に思えた。
醜悪で、貧相で、不潔だった。なにより
発見されたとき森のなかで女の遺体の
そばにいた。隣人の話では、男はいつも
リスの死骸、切り刻んだイヌ、ときには
ヘビと遊んでいたという。近寄るのを
許してくれるのはこうしたものだけ
だったからだそうだ。「おれを見てくれ」、
老人は観念したようにあっさり言った。
「おれはもうあの世にいったようなもんだが、
 死が辱めるように辱められた
 生き物は見ていられないのだ。
 道ばたの血まみれのオポッサム、アリに
 目を食われる小鳥。瀕死のネズミだって
 恥辱を思って独りになりたがっている。
 たしかにおれは女の顔の泥やからだについた
 血を拭ってやった。髪の毛を梳かしてやった。
 女の足元で、おれのイヌもやってたみたいに、
 二日間寝た。できるだけきちんと服を
 着せてやった。ほったらかしの感じだったからだ。
 草むらに捨てられたゴミみたいだった。
 男がそうしたんだからもうどうしようもないって
 感じだった。どのぐらい独りで
 いることになるんだろうってずっと考えてた。
 分かってたんだ   警察がきて女の写真を撮る、
 あられもない裸の写真が新聞に載る、読者は
 朝飯を食いなががらそれを眺める。せめて
 あの魂に準備の時間をやりたかったんだ。」



          ジャック・ギルバート(Jack gilbert)