道端のノート。

僕の好きな詩を少しづつ載せてみたり、自分の詩を載せてみたり、
唯のくたびれたノートの1ページです。



2010/05/27

あけがたの歌




燈を消そう。そのうちもうあけがただよ。
水腫のあま皮をはがす剃刀のような
鋭利なあさやけ。
ひらかれた窓からながれている
爽やかな悲愁。

 紙幣。このひとときには、それも
  うすぼけた紙切れとしか見えない。
 窓外の風景は、しらけきって、ねざめぎわの夢のあとを追って
  どこかへ逃げてゆこうとさまよう。

 僕も、僕のつれあるいている影も、ゆくところがない。

地平線、

そのうえに重なる灰色の屍。
るいるいとしたからだ。

大河の氾濫につづく洪水。
そのうえをわたって
細いマッチ棒のような錐柱。
ならぶ百本の煙突。

遠い海峡の潮の音。

かえらない為にとびたつ
戦闘機。



ががぶたや、水かまきりや、頭もしっぽも
ずんぐりしためくら魚どもが
泥沼のなかを横行している。
陰謀と、嘘と、醜さが、こんなにはっきり
みえていることはない。
出発しよう。さあ。
まだ誰も起きてない街をそっと通りぬけて、

敷石のしたからきこえてくる
亡びたジャズの雨音。

うなされている画ビラ。

涙にしめったコンクリと、
汗をかいた銃。

あのながい塀のうちは
屈従、
屈従、
屈従、
どんな恥も
屈従よりはいくらかましだ。

いなずま。
いや、そうじゃないよ。あれは、
誰かが白鶴となって朝空に舞い上がるため
じぶんの頭に、弾をうちこんだのだ。



         金子光晴

2010/05/24

触知


或る男はイエスの懐に手を入れて
二つの傷痕を撫でてみた。
一人のかたくなな彫刻家は
万象をおのれ自身の指で触ってみる。
水を裂いて中をのぞき、
天を割って入りこもうとする。
ほんとに君をつかまえてから
はじめて君を君だと思ふ。


          高村光太郎

2010/05/02

「異邦人」より


そのとき、すべてがゆらゆらした。
海は重苦しく、激しい息吹きを運んできた。
空は端から端まで裂けて、火を降らすかと思われた。
私の全体がこわばり、ピストルの上で手が引きつった。
引き金はしなやかだった。
私は銃尾のすべっこい腹にさわった。

乾いた、それでいて、すべてを聾する轟音とともに、
すべてが始まったのは、このときだった。
私は汗と太陽とをふり払った。
昼間の均衡と、私がそこに幸福を感じていた、
その浜辺の特殊な沈黙とを、うちこわしたことを悟った。
そこで、私はこの身動きしない体に、
なお四たび撃ちこんだ。
弾丸は深くくい入ったが、そうとも見えなかった。
それは私が不幸のとびらをたたいた、
四つの短い音にも似ていた。


               カミュ

2010/05/01

革命的ペチュニア



悲しみのサミー・ルーは
夫を殺した奴に
仕返しをした
耕作用のくわを使い
うまく一撃を命中させた
そして笑った
不信の中で
自分自身の怒った戦闘的な姿を
町のヘボ詩人たちが素早く作り上げた英雄的姿
そんな詩人など一人も彼女は知らなかった。

彼女の家は人里離れた森の中
彼女の家の壁紙は
遺体安置所のカレンダーと顔写真
それらは ミシシッピーの日曜学校にふさわしい。

彼女は育てた
ジョージを マーサを ジャッキーを ケネディを
ジョン・ウェスリー・ジュニアもまた
「いつも神の御言葉を尊敬するんだ」
彼女は殺しに行く途中で言った その道が
どこへ続くか
彼女は知らなかった
知っていたのは その道が
電気椅子に繋がることだけ
そして彼女は続けた
「水をやるのを忘れんでほしい。
 あたしの紫のペチュニアに。」



            アリス・ウォーカー(Alice Malsenior Walker)